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ちばの人間探訪

「がんと向き合う」

(左画像)
 さくさべ坂通り診療所 院長 大岩 孝司さん

心の自立を支える在宅ケア―

がんの訪問診療専門の診療所を開設して4年。残された貴重な時間を住み慣れた自宅で過ごしたいと願う末期のがん患者さんの在宅ケアについてお聞きしました。

ジーンズ姿のお医者さん―

さくさべ坂通り診療所を訪ねると、どなたかのお宅にお邪魔しているような気持ちになる。誰一人として白衣を着ていまい。しかも病院のにおいがしない絵や花が飾られた応接間。そして驚いたのは大岩さんがセーターにジーンズ姿で現れたことだった。
私たちは何らかの医療を受ける際、白衣姿の医師と対峙すると緊張を感じたり何か壁を感じることはないだろうか。権威的な圧迫感を感じ、医師と対等な立場での意思疎通がしにくいことがあるのでは。大岩さんの服装にはそのような配慮も感じられる。

末期がんの在宅ケア―

大岩さんは勤務医時代から出勤前や帰宅途中に担当患者の自宅を訪問。経過確認や再発後のフォローなどを行ってきた。平成14年、稲毛区に「さくさべ坂通り診療所」を開設。終末期を在宅で過ごすがん患者を対象とした訪問診療を始めた。患者数は平均して25人前後。小児から高齢者まであらゆる臓器のがん患者の在宅支援を行っている。末期がんの在宅ケアにおける医療面の支援は、薬による痛みの緩和が中心となる。病院との大きな違いは、痛みが取れたその瞬間から患者自身の生活が始まるということだ。余命数ヶ月の患者が痛みのコントロールにより、自営業を再開したり、ゴルフコースに出たり、念願の沖縄旅行を果たした女性、親戚への最後のあいさつ回りにと国内五ヶ所を旅した60代男性など、いろんな患者さんを診て来た。患者さんが、残された時間をこれまで同様に生活を積み重ねられるようサポートし、看取りのときまで、そしてその後は残された家族を側面から支援していく。

意思統一の重要性―

大岩さんが最も大切に考えているのは、患者さんとその家族と医療者の間でのしっかりとした意思統一だ。聞かれたことには答える。治らないことを伝えるのはとても辛い。だから言葉には配慮する。でも事実をしっかり伝える。治らないことがはっきりしている患者さんとその家族が、自分たちの置かれている状況をしっかりと把握することにより、病気に振り回されないで生きることができるようになるからだ。「真っ暗な道でも、知っている道と知らない道では不安度も違うでしょう。」と大岩さんは語る。患者や家族が不安になるのは、何が起こるかがわからないから。今どういう状況なのか、何が起こっているのか、どう対処すればいいのかがわかっていれば、落ち着いていられる。人がパニックになるのは状況が把握できないときだ。患者さんや家族と話し合いを重ね、互いの考え方を整理することで不安はずいぶん解消されるという。

二つの条件―

患者自身が家にいたいという意思、家族をそれをサポートする意思、この二つが在宅ケアの必要条件。がんのよいところは制約があっても禁止事項がないこと。痛みや苦しみから解放され、必要なときに医師や看護師が来てくれるという安心感を得ることで残された時間を住み慣れた家で過ごすことができる。病気や痛みそのものが問題なのではなく、そのことを患者さんが受け止めるか、痛みがあっても辛いと思わないかが満足度の鍵となる。
痛みを受容し、自身を保ち、前向きに生きられるような「心の自律」を支えるケアの必要性はこれからも高まっていくだろう。




(2005年5月)


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